Pikari

Pikari 

Pikari is an onomatopoeia in Japanese, which means ‘shining’ or ‘flashing’ . The idea for Pikari came from star-navigation, the ancient technique of Polynesian sailors. They would find their location and direction guided only by the natural environment like stars. Since leaving Japan, I have used lights in cities to map my environments and find a place, similarly to the Polynesian sailors following the stars. Twilight always transport me back to my childhood, in which I was walking back to home with my mother, spotting the first star light in the inky blue sky. In looking at the feeble glitter of stars near the horizon, I realised that these starlights and the shimmer of warm lights from kitchen windows on the ground could be fixed on to a 4x5 in negative plate in an equal manner. I have created the photographs using a large-format camera with 20-80 minute exposure time.

This project was partially supported by the Prime Minister's Initiative II Fund and produced mainly in Ahmedabad, India.

Chromogenic Print, Edition of Number of 5 (30"x40"), 5 (16"x20") and 10 (10"x12").

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Pikari

インド行きの切符は突然、私の手にやってきました。

英国の大学へ編入して、ちょうど一年が過ぎた頃のこと。私はロンドンから南西に電車で一時間弱のファーナムという町に住んでいました。古いれんが造りの家と美しい庭が交互に現れる穏やかな町で、裕福なお年寄りが多く住む一方若者には物足りないと嘆かれる、そんな町でした。大学近くの家に間借りをはじめたものの、夜は暖房を使わせない、洗濯は朝六時までに済ますこと、家主であり同居人の老婦人が家を空けるときは私もよそに泊まるなど、数多くの決まり事を次々と申し渡され、ついいい子ぶった返事をしてしまう自分が情けなく、異国で「安心して帰れる家」を持たない心細さを抱えて、日が暮れても星を見上げながら原っぱを遠回りをして、いつまでも帰ろうとしなかった頃でした。

大学では朝から夜まで暗室で、カラー写真の現像と焼き付けに明け暮れていました。その日も作業後すっかり暗くなった廊下で、ふと学内掲示板に貼られた一枚の真新しいA4の紙が、私の眼をひきました。「短期選抜留学生の募集」。行き先はデザイン教育で著名なインド国立デザイン大学(NID)のあるインド西部アーメダバードで、期間は一ヶ月。

選ばれたら、一ヶ月間あの部屋以外のどこかに帰ることができる。

それはあまりに魅力的な誘いでした。これまで行くことがあるとも思わなかった土地、インド。その選抜学生として選ばれた私は、ほっとした気持ちで小さな荷物をまとめ、4x5のタチハラ社の大判カメラと予備の中判カメラ、フィルムと三脚をかばんにつめて、仮の住まいをあとにしました。

そこは蜃気楼のような街。陽炎のようにゆらめく光と夜がありました。

「何千万光年離れた宇宙から届く星の光と、遠い家の小さな窓からもれる灯りは、光を定着させて画像とする写真においては、等しく存在する。」ある日そのことに気がついた私は、夜空の星を見上げるような気持ちでファーナムの家の灯りを眺めました。小さい頃夕暮れの保育園で母が迎えに来てくれるのを、妹と二人で一番星を見上げながらずっと待っていたことを思い出しながら、手の届かない星の光に暖かさを感じ、すぐそばの小さな家の台所からもれる暖かい光に距離を感じながら、自分の帰る場所ではない異国の夜の光をただ見ていました。

アーメダバードから、この作品ははじまりました。知らない街の夜、その風景の中で暮らす人々のあたたかさにすっかり魅せられた私は、毎年数ヶ月単位でこの遠い街に「帰る」ようになったのです。これまでの足掛け八年間にわたる撮影を支えてくれた人々に深謝しつつ、夜通しカメラをかついで歩き回って見つけた、夜の片隅に浮かび上がる「光の街」と、そこに暮らす人々の物語をお届けします。

この作品の制作にあたり、英国のブリティッシュ・カウンシルよりプライム・ミニスターズ・イニシアティブ基金を受け、インド・アーメダバードを中心に制作されています。お世話になった方々へ御礼申し上げます。